シリーズ『やさしいインボイスの始め方』について
やさしいインボイスの始め方では、インボイス制度に興味をお持ちの方(特に初心者の方)向けに制度の内容を解説しています。インボイス制度の基本的な概要から領収書の書き方、補助金を受けるために必要なことなどをシリーズ化して説明していきます。
インボイス制度とは消費税に関係する制度です。第1回となる今回は、インボイス制度の基礎的な内容をザックリ解説しています。制度の理解に必要となる消費税の仕組みから説明しているので、現在免税事業者で消費税を納めていないという方にもわかりやすい内容となっています。
国税庁の公式HPなどから集めた情報をコンパクトにまとめましたので、移動時間や休憩時間にサクッと学べる内容です。
インボイス制度の概要
◆インボイスとは?
正式名称は適格請求書です。
売手が買手に対して、取引を行ったときに適用した税率や消費税額を正確に伝えるものです。
インボイスを発行できるのは 税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)に限られます。また、インボイス発行事業者になれるのは課税事業者のみです。なので、非課税事業者がインボイスを発行したい場合は課税事業者になる必要があります。
インボイスは、決められたルール通りの内容を記載していれば 紙でも電子データでも問題ありません。
◆インボイス制度とは?
正式名称は、適格請求書等保存方式です。
インボイス制度とは 事業者が消費税を納税するときに関係する制度で、仕入額控除(仕入れをした時に払った消費税の控除)を受けるさいにはインボイスを利用して正確な税額を確認しますよという制度です。
このインボイス制度は2023年10月1日から始ります。
◆インボイス制度の目的
インボイスは売り手が買い手に対して正確な消費税額・適用消費税率を伝えるための手段となります。
インボイスを使う事で 例えば、売手が8%の消費税率で販売したものを買手が10%の消費税率で控除を受ける なんてことを防止できます。(益税を防ぐために色々考えられているんですね。)
インボイス制度は国が決めた制度であり、国税庁からガイドラインなどがたくさん出されています。
ここまでがインボイス制度についての概要です。
消費税の仕組み
インボイス制度の中身を理解するために、まずは消費税の基本的な仕組みをおさらいします。
事業者が商売で受け取った消費税は、国に納めるものをいったん預かっているかたちになります。
この消費税を最終的には国へ納めるわけですが、仕入れの時に払った消費税については差し引いてもらえます。
つまり事業者が納める消費税の納付額は、「商品を販売した時に受取った消費税」から「商品の仕入れをした時に払った消費税を引く」ことで算出されます。
この仕入れにかかった消費税額を差し引くことを仕入税額控除と呼びます。
仕入税額控除を受けるためには、証拠となる帳簿や請求書等の保存といった条件があり、2023年10月以降はインボイス等の保存が条件となります。
登録業者の義務
インボイス発行事業者となった事業者には、売手としての義務と買手としてやることが発生します。
◆売手としての義務
①取引相手の求めに応じてインボイスを発行すること。
②過去に行った取引について、返品や値引きなどを行う場合には適格返還請求書(返還インボイス)を発行すること。
※スーパーなど その場で値引きを行う場合は 返還インボイスではなく通常のインボイスに反映させるだけで大丈夫です。
③発行したインボイスに誤りがあった場合には、修正したインボイスを発行すること。
④発行したインボイスの写しを保存すること。
◆売手側の交付義務が免除される特例
取り引きの性質上 インボイスの発行が難しいものについてはインボイス交付義務が免除されています。交付義務が免除される特例取引は次の5つです。
①3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
②卸売市場で行う生鮮食料品等の販売
③農協等に委託して行う農林水産物の販売
④3万円未満の自動販売機による販売
⑤郵便切手を対価とする郵便サービス
◆買手としてやること
インボイス発行事業者が 仕入税額控除をしてもらうために 買手として行うことはこちらです。
①売手が発行したインボイスを保存する。
②買手が作成した仕入明細書等を保存する。(インボイス記載事項が書かれていて 取引相手の確認を受けたもの。)
③卸売市場を通じた生鮮食料品の委託販売や農協を通じた委託販売についてはインボイス交付が免除されているので、その場合は 間に入っている事業者が発行した書類を保存します。
④インボイスなどの保存は紙だけでなく電子データでの保存も可能です。
※インボイス発行事業者として登録している事業者のうち、簡易課税制度を選択している場合はインボイスの保存は必須ではありません。簡易課税制度を選択した事業者は、仕入れにかかった正確な消費税額ではなく、みなし仕入れ率を使った計算方法で納税額を算出するからです。
2023年9月までの現行制度(区分記載請求書等保存方式)では 3万円未満の仕入れや請求書の交付を受けなかった場合でも、やむを得ない理由があるときは帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められますが、インボイス制度がスタートすると認められなくなります。
メリットとデメリット
インボイス発行事業者の登録をしないとどうなるのか、心配されている方もいるかもしれませんが 登録は任意です。義務化されていないので、導入するメリットとデメリットをよく考えて各事業者が決めることになります。
ここからは、インボイス発行事業者になることのメリットとデメリットを紹介します。
インボイス発行事業者になる場合
◆メリット
仕入税額控除を受けるために必要なインボイスを取引先に渡すことができます。
◆デメリット
インボイス発行事業者として登録した後は、決められた通りに税率や税額を記載したインボイスを発行する必要があり、そのための対応が必要となります。具体的には会計ソフトの導入やレジの購入が考えられます。その他、従業員への教育も必要になると考えられます。
※インボイスは手書きでもOKなので、必ずしも新しくレジなどを買う必要はありません。ここでは例として書いています。
免税事業者がインボイス発行事業者になる場合は、同時に課税事業者になる必要があります。課税事業者になると課税売上高が1,000万円以下の場合でも消費税の申告が必要となります。
インボイス発行事業者にならない場合
メリット
課税売上高が1,000万円以下の事業者は、これまで通り非課税でいられます。
デメリット
インボイス制度が始まると、インボイス発行事業者以外からの仕入れについては 仕入税額控除 を受けることが出来ません。そうなるとインボイスに対応している事業者に取引先を変更されてしまう可能も考えられます。
いつまでに対応すれば良いですか?
2023年10月1日からインボイス発行事業者としてスタートするには、2023年3月31日までに登録申請書を税務署長へ提出する必要があります。
経過措置期間があります
免税事業者などのインボイス発行事業者以外から行った仕入れについては原則、仕入税額控除は受けることが出来ません。
しかし、インボイス制度が始まってすぐに控除が全て無くなるわけではありません。インボイス発行事業者以外からの仕入れであっても、6年間は仕入税額の一部を控除してもらえる経過措置期間が設けられています。
◆経過措置期間
経過措置期間はトータルで6年間です。
登録事業者の公表
インボイス発行事業者になると、国税庁の公表サイトで公表されることになります。インボイスを受け取った側が 売手のインボイス登録番号をもとに 公表情報を検索することができるようになります。
◆公表される項目
インボイス登録事業者の公表サイトで公表される項目はこちらです。
①インボイス登録番号
②登録年月日/登録取消年月日/登録失効年月日
③インボイス発行事業者の名前または名称
④法人の場合は本店または事務所の住所
⑤特定国外事業者以外の国外事業者の場合は、国内において行う資産の譲渡等に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地
個人事業主の方でインボイス発行事業者に登録すると住所が公開されるのでは?と心配されている方もいるかもしれませんが、個人事業主の場合は住所は公開されません。個人事業主でも事務所等の住所をあえて公表したい場合は、そのための申請が必要となります。
罰則
インボイス制度における罰則規定についても少しふれておきます。
インボイス発行事業者の登録をしていない事業者が、インボイスや簡易インボイスと間違えられるような書類を発行することは禁止されています。
また、インボイス発行事業者として登録している事業者が偽りの記載をすることも法律で禁止されており、違反した場合の罰則も設けられています。
ただし単純な記載誤りの場合は、修正したインボイスを交付すれば大丈夫です。
以上がインボイスの概要と消費税の仕組みに関する内容です。インボイスのフォーマット(記載例)や補助金制度については「やさしいインボイスの始め方②」以降で順番に紹介しています。
インボイス関連記事
≫ ⑧個人事業主はインボイス登録してる?(登録者数と登録率)
参考
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm